ヤングアダルト
お誕生日おめでとうございます。今年もお祝い出来て嬉しいです。短いお話ですが楽しんでいただけたら幸いです。
シモンにとって、最良のいちにちになりますように。
カチ、カチ、カチ、カチ
秒針が数字の12に達した瞬間を僕は久しぶりに見たかもしれない。手のひらの中には通知がならないまま、何も表示されないスマートフォンが握られている。
「……」
少なからず彼女から0時ちょうどにメッセージが来ることを期待していたのだ。しかも、確信に近いくらいに。約束をしたわけでも、話をしたわけでもないというのに。
10分経っても通知のこないそれを机の上に伏せて置く。うっかり者の誰かさんからの通知に即反応できるようマナーモードを解除した自分に少し笑ってしまった。
自分の誕生日が待ち遠しかったのはもちろん、誰か、いや特定の大切な人から贈られる言葉が楽しみなのはほぼ初めてのことで、胸の中に巣食うもやもやとしたものをどうしたものかと戸惑う。きっと彼女は一心不乱に仕事をしているのだろう。僕の誕生日に構っていられないほど、必死に。けれど今この瞬間彼女の心の中を支配しているのが僕ではないことに軽く嫉妬すらおぼえた。仕事と自分、比べられるものでは無いというのに。これではまるで、「仕事と私、どっちが大事なの!?」と迫っていたあのドラマのヒロインと同じじゃないか。
「大体の感情は制御できるつもりだったんだけどね」
彼女が絡むとそうはいかないらしい。僕も、ただひとりの女性に恋をするだけの男ということか。
脳内の「僕」が余計なことを考え始める前に眠ってしまおう。明日の朝慌てた様子でこの部屋に飛び込んで来る愛しいきみのことを想いながら――

