会いたい時は

written by なの

特に誕生日とは関係のない日常話となっておりまして、付き合ってます。
ネタバレは無いはず……ですが、付き合っている時系列(未来の話)を書いている事から、中国版プレイヤーである筆者は意識せずネタバレを含めてしまっている可能性があり、その点をご了承いただける方のみご覧ください。

 ーーピンポーン
 
 長年聞きなれたインターホンのチャイムの音が聞こえる。
 ただ、鳴っているのはわたしの家のでは無く、わたしが鳴らしたお隣の家だ。

「いらっしゃい。どうしたの?夜更かしさん。」
 ドアが開いて、そう耳に馴染んだ声がかけられる。
 確かに時間は既に少し前に日付変更線を超えていたけれど、いつもは仕事が忙しい時は休日といえど朝にしか返ってこないシモンが、今日は少し前に帰宅したようだったから、きっと仕事がひと段落したのだと思い、返したいと思っていた映画のDVDを持ってきたのだ。
 でも、こんな時間にも関わらず出てきたシモンは、その髪が少し濡れている上にパリッとしたワイシャツを着ていて、いかにもこれからもう一度出かける準備中という雰囲気で、わたしは自分の判断が間違っていた事に気がついた。
「でも明日……というかもう今日だけど……日曜日だし、お休みだから。」
 だから、多少の夜更かしくらいはは大丈夫なのだ。でも、彼の邪魔はしないようにしなければ。
「これ、借りてたの返しに来たの。ありがとう。それじゃぁ、おやすみなさい。」
 そう言ってシモンにDVDを渡し、踵を返しポケットから自分の部屋の鍵を取り出して開けようとしたところで、その手を掴まれた。
「折角だから、一緒にお茶でもどうかな。」
「でも、シモンはまた出かける所だったでしょ……?」
 そう返して彼を見上げると、小さく溜息をつく姿が目に入る。
「そうだけど、でもお茶を飲む時間くらいはあるから。」
 そう答えた彼にそのまま手をひかれ、気付けばお隣の家にお邪魔する事になっていた。

「はい、どうぞ。」
 出てきたのは、いい匂いのするハーブティーだった。何だかよく眠れそうな気がしてくる匂いだ。
「美味しい。それに何だか落ち着くいい匂い。」
「それなら良かった。安眠効果があるんだ。それで、今日はどうしたの。何かあって眠れなかった?きみの仕事は順調そうだと思っていたのだけど。」
 ソファーの隣に座ったシモンからそう質問が投げかけられる。
 確かに、わたしはパジャマ姿に上着を羽織っただけのラフな格好で、今日はあとはもう寝るだけだった。それに対して、隣に座るシモンはスラックスにワイシャツ姿で何だか落ち着かない。でも、別に眠れなかったからという訳ではない。
「うん。仕事は順調だし、別に眠れなかった訳でもないよ。今日は特にシモン教授にアドバイスいただく事はございません。」
 そう返して出来る限りの笑顔を作る。
「シモンこそ、この時間に戻ってくるの珍しいね。またすぐ研究所に戻るんだよね?」
「うん。実は実験中に不注意でワイシャツを濡らしてしまって、着替えに来ただけなんだ。」
「それで、きみは、本当にDVDを返しに来ただけなのかな。」
 逸らしたつもりの話を戻されてしまった……
「それは……」
 ……それは確かにそうではない。元々DVDを返すのは別にいつでも良いと言われていて、そんなのただの口実だ。
 でも、きっと正直に言ったら、まだ忙しい彼を困らせることになる気がして、それは避けたかった。
 答えるのを迷っていると、優しく抱き寄せられた。いつものシャンプーとワイシャツの匂いが鼻をくすぐる……わたしの大好きな匂いだ。
「僕には言えない理由……?」
 そう言われてしまうと、下手に何かあったのかと別の心配をかけるよりも、何も無いのだと言ってしまった方がもう良い気がして、素直に理由を告げる覚悟を決めた。
「本当に何でもないの。ただ、あなたが帰って来てるって気がついたら、どうしても……少しだけでもいいから会いたくなっただけで……」
 そう言って、そのまま彼の肩口に頭をもたれかけた。
 
 はーーーという大きな溜息が耳元で聞こえる。
 彼に呆れられてしまっただろうか……そんな不安が胸を占める。
 
「仕事に戻りたくないな……」
 その深く囁くような声に驚いて彼から体を離し、シモンの顔を見上げる。
「でも、戻らないといけないんだよね……?」
「そうだね。でも、きみがあまりにも可愛い事を言うからだから、仕事に戻りたくなるように責任をとってくれる?」
 そう言って微笑む彼はいつもの笑顔だった。
「ねぇ、キスしてもいい?」
 顔に手を添えられてそう囁きかけられる。
 意味をじわじわと頭が理解すると、血が上っていくのを感じた。
「……聞かなくてもいいって、いつも言ってるのに……」
 そう言い終わるか終わらないかの所で、啄ばむように何度も唇を重ねられる。
「そうだね。でも、”いい”って言ってくれる時のきみの顔が見たいんだ。」
 時折離れる口づけは、重ねるたびに深くなっていき、もうこれ以上は……と思い始めたところで完全に唇が離れた。
 もう一度、彼の肩口にもたれかかり、あがってしまった呼吸を整えようとする。
 わたしの頭を支えてくれていたシモンの手が背中に回され、もう一度今度は強く抱きしめられた。

「今日はもうこのまま僕の部屋で寝ない?僕はきみが寝たら研究所に戻るから、起きたら僕が帰るまで待っていてくれないかな。」
「出来るだけ早く仕事を終わらせて……そうだな、夕飯の時間までには帰れるようにするから。」
 次に会えるのはいつかわからないと思っていたわたしは、びっくりしてもう一度シモンの顔を見上げてしまう。
「大丈夫?無理してない?研究の進捗に問題が出たりしない?」
「大丈夫。さっきお茶をいれていた時に、悩んでいた課題の解決策を思いついたんだ。きみが会いに来てくれたおかげだよ。」
「だから、きみも僕が家に居る時くらいは、仕事をしてる時もあるかもしれないけれど、それでもきみから会いたいと思ってくれた時くらいは、いつでも僕に会いに来て欲しい。」

シモン主、私の中では会いたがっているのはいつもシモンさんの方というイメージがありまして、主ちゃんに「会いたかった」って言われているところがみたくて書いてみました。
シモンさん今年もお誕生日おめでとうございます!
末永く主ちゃんと幸せになってください……よろしくお願いします……